第１０４回全国高校野球選手権宮崎大会

本紙掲載日：2022-07-28

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◆苦難で前を向き、最高の瞬間－④高橋正道（３年）

　難しい社会情勢の中、関係者と協議し、チームの判断で準決勝などを１６人で戦った富島。最後の瞬間、マウンド上で突き上げた人差し指は２０人分だった。

　欠場を余儀なくされたうちの１人だった主将の高橋は「全員でマウンドに集まれたことが幸せだった」。濵田監督は「いろんな人の支えがあってこの瞬間が迎えられた」。苦難の先に最高のフィナーレが待っていた。

　大会前まで「個の力は強いがまとまり切れていなかった」と日髙。チームの周囲であっても体調の変化を見逃さないという方針の下、５試合ともベンチ入り２０人はそろわなかった。

「来られない人がいる」。その事実、思いが一人ひとりを、チームを強くした。

　夏まで、チームの敵は「イライラ」だった。

　プロ野球の世界が注目する圧倒的な能力を持つ日髙。だが、「ミスをした選手が下を向くのがいやだった」。濵田監督が「そのイライラはどうにかならんのか」。名指しで、指摘するほど雰囲気を悪くしてしまっていたという。

　だが、最後の夏。二塁手の主将を欠いたが、「攻めたエラーはしょうがない」とは急きょ、三塁に入った安藤。走攻守でチームを引っ張る日髙を、全員が前を向いて支え、最高の瞬間を引き寄せた。

　「ありがとう」。応援席に礼をした後、日髙に抱きついた高橋。この言葉しか出なかった。

　高橋は「（欠場中）高校野球はもうできないとあきらめた瞬間もあったが、こいつらならやってくれると信じて、前を向けた。決勝で追加点が取れない中でもマイナスな態度、言葉は一切なかった。１年間やってきたことができた」。

　練習にも参加できていなかったため、主将は決勝のグラウンドに立たなかった。全員がそろう練習を再開すればもっと強くなれる。

◆夏の主役決勝は〃マダックス〃－①日髙暖己

　宮崎の夏の主役が、最終回に投じた９球はすべてストレート。最後の打者は自己最速に並ぶ１４８キロを外角低めで三振に。富島・日髙は二塁を踏ませず
に、９１球で完封した。

　富島中までは内野手で、高校も遊撃手志望。当時は右打ちで憧れは山田哲人選手（ヤクルト）だった。当初は指導陣からどう言われても、マウンドが好きではなかった。

　負けが目覚めさせた。昨夏３回戦で、自らが登板し、敗れた。覚悟を決め投手用のグラブを手に。投手として甲子園、その先のプロを目指しはじめた。

　綿密に育てられた。成長期のため、２年時までは１００球以上の投げ込みを制限。体力を付けて、この大会の１カ月前から中２日で１００球以上を全力で。投げるスタミナを付けた。

　今春からは松尾拓也部長の指導で、「指の力」の強化に。２キロほどの鉄球を真下に投げたり、授業の合間などに３キロの砂の球を手に持ったり。握力自体も１５キロ向上し、６０キロほどになり、空振りの取れる直球になった。

　決勝は１時間２５分の雨中断もあったが「少し疲れを感じたので、いい回復になった」とどこ吹く風。勢いに乗った相手打線には「真っすぐで押して勢いを消す」。最終回は日柳の強気のリードに応え「（相手は）隙を見せると、勢いを出す」とギアを上げてねじ伏せた。

　近年、１００球以内での完投は元米大リーグの名投手の名前から〃マダックス〃と称される。

　県高校野球史に名を刻む快投を見せた右腕は、「最後に一番いいボールが投げられた。（甲子園では）スピードばかりにとらわれることはしないが、ここぞでギアを上げて、１５０キロを出したい」。全国の注目を浴びそうだ。

【サンマリンスタジアム】
▽決勝
宮崎西　０００００００００-０
富　島　１００００００１×-２
▽二塁打＝黒木天（富）
［評］富島・日髙は初回と四回に単打を許しただけ。四回は捕手の日柳が二盗を阻止して、打者２８人で９奪三振、２安打、無四球完封を果たした。打線は初回、２死一塁から山口がエンドランを決め一、三塁。椎葉の左前打で先制。八回は安藤の右犠飛で貴重な２点目を奪った。