シンポジウム－コロナ禍の災害どう備える

本紙掲載日：2021-06-12

8面

「コロナ禍における大規模災害への備え」をテーマに開かれたシンポジウム

来場者は看護学生、看護師、保健師、医師ら８７人に限定。オンラインでも配信された

医師、看護師ら意見交わす－延岡

　延岡・西臼杵地区の災害看護シンポジウム（県看護協会主催）が５月２９日、延岡市の延岡総合文化センターであった。延岡看護専門学校の門田広美副校長が座長を務め、行政担当者、看護師、医師が「コロナ禍における大規模災害への備え」をテーマに登壇やオンライン中継で講演し、意見を交わした。

　新型コロナウイルス感染防止のため、来場者は延岡看護専門学校の看護学生をはじめ、延岡地区の看護師や保健師、医師、行政職員、市・県議ら８７人に限定。参加できなかった看護学生らに向けオンラインでも配信した。

◆まずは自分が生き抜いて－延岡市経営政策課の山﨑さん

　行政からは延岡市経営政策課主任主事の山﨑真梨子さんが「災害時の情報収集と情報発信」と題し、市や県・国の災害時対応や、災害情報の捉え方などを説明。行政は先々を想定しながら備えの呼び掛けや避難者の受け入れ準備を進め、被災地へは県内外の関係機関で連携して支援に入る仕組みがあることを紹介した。

　災害・避難情報も管轄機関から早め早めに出されるとして、発令基準や取るべき行動などを解説。「災害時も皆さんしか癒やせない人がいます。まずは皆さん自身が生き抜いていただき、一緒に災害対応していただければ」と訴えた。

◆支援受け入れる備えを－宮崎市郡医師会病院の鵜野さん

　看護師の立場からは、宮崎市郡医師会病院救命救急センター副看護師長で救急看護認定看護師の鵜野和代さんが、「コロナ禍での病院移転の経験から考える大規模災害時の避難計画と受援体制」をテーマに講演。支援を受け入れる備えの重要性を説いた。

　同病院は昨年８月に１１キロ離れた内陸部に移転。その半年以上前の２０１９年冬からプロジェクトチームを立ち上げ、全２４８床で受け入れている入院患者を当日までにどれだけ抑えられるかなど、移送方針・計画を練って準備を整えたという。
　
　１００人以下まで抑えることを目標とした患者数は、病院経営（診療報酬）との兼ね合いで難航。新型コロナの影響で、支援に入るＤＭＡＴ（災害派遣医療チーム）が減ることも想定しなければならなかった。

　入院患者は乳幼児から高齢者までおり、一部搬送を担う民間会社には重症者用の吸引機器がないことも配慮。片道３０分のピストン方式で、消防や警察も加わった搬送と護送、万一停電して電子カルテが使用できない場合の対応など、山積する課題を乗り越え、当日は５５人まで抑えた患者全員の搬送をスムーズに完了することができたという。

　こうした経験から、正確かつ詳細な情報と意思疎通の重要性を強調。電子カルテが使えない場合などは、看護師のメモが頼りになるとして「１日１回は患者情報を出してもらうのもいい」とアドバイスした。

　また、東日本大震災では患者の優先順など避難計画を作成していたにもかかわらず、孤立していたことが発生３日後に分かった病院があったことを紹介。延岡市内の医療機関４３０施設のうち４０６施設が避難計画を作成していることをたたえつつ、いざという時にどのような被害が出るかを想定した備えを進め訓練し、食料や資材を備蓄しておくよう求めた。

　大規模災害になれば、さまざまな機関から支援が入る一方で、受け入れる側も混乱し、日ごろ一緒に仕事をしていない人たちと働くことが負担となることも指摘。「まずは被害想定を明らかにして、どのように支援を受け入れるかを考え、お願いすることを相手にしっかりと伝えて自分たちの負担にならないようにしてほしい」と呼び掛けた。

◆あるもので、やれることを－県立延岡病院の長嶺さん

　最後に、医師で県立延岡病院救命救急センター長、救命救急科長の長嶺育弘さんが「災害時における災害拠点病院の役割と県北地区の課題」をテーマに、近年発生した自然災害からの教訓などを語った。

　災害拠点病院は２４時間いつでも災害に緊急対応でき、被災地域内の傷病者の受け入れと搬出が可能な病院で、平時でも救急患者を受け入れていると説明。自己完結型で医療チームを派遣でき、自らの病院だけでなく、地域の災害医療を担保していることも紹介した。

　県内にはこうしたＤＭＡＴ指定病院が１３施設あるが、海に近い立地もあり、南海トラフ巨大地震が起きれば津波で浸水する可能性があると指摘。延岡病院は１００年に１度クラスの洪水で浸水する恐れがあり、昨年までに止水板を設置したことを報告した。

　大規模災害時には延岡病院で県北地域の傷病者をできる限り受け入れ、同じくヘリポートを持つ延岡共立病院も活用。患者があふれた場合には九州保健福祉大学から、自衛隊の大型ヘリなどで熊本県へ搬送する体制が整備されていると説明した。

　１８年の広島豪雨では災害拠点病院も断水し、できる限り患者を転院させ、透析量を落としたりトイレも節水するなどして、一般病床を確保。病院避難は重症者１人に医師や複数の看護師が付き添うなど非常に負担が大きいため、「病院機能を喪失しても残存している機能を活用して籠城する必要がある」と強調した。

　同年の北海道胆振（いぶり）東部地震による大規模停電（ブラックアウト）では給油口の型が合わずに、発電機用の重油が供給できないトラブルが発生。１９年９、１０月には千葉県で２度の台風被害が発生し、９月は停電でクーラーが使えず熱中症、１０月は洪水による断水が相次ぐなど、同じ自然災害でも支援内容が異なったとして、「災害の本質を見抜くことが大事になる」と支援する側の心構えを語った。

　一昨年に延岡市を襲った竜巻では延岡共立病院が停電したため、入院患者２人を転院搬送し、電力会社に電源車を手配。ほかの医療機関や老人保健施設の被災状況は把握できたが、介護施設の情報がなかったため急ぎ確認し、その後は一覧表を作成して昨年９月の台風で活用されたという。

　こうした自然災害に備える中で、新たに対応を求められることとなった新型コロナウイルス感染症については、「医療現場の災害」と表現。院内に受け入れる際に問診で症状があった患者には発熱・コロナトリアージの実施を検討しているが、「大規模災害では正直難しい」として、院内スタッフ全員が完全防護で従事する以外にないだろうとの対策案を示した。

　最後に、ＤＭＡＴは全国に４３３チームあるが、広域が被災する南海トラフ地震で県内に来るのはわずか２０チーム、うち県北は７～１０チーム程度で、「自分たちでできることを考えておかないといけない」と強調。「延岡は畳堤など自分たちで対応してきた。あるもので、できることをしていかなければならない」と自助、共助の強化を訴えた。