のべおか笑銀座「おーい、生きてるよー」熱演

本紙掲載日：2021-11-16

6面

何でもないことが大切なこと

　延岡市のシニア劇団「のべおか笑銀座（しょうぎんざ）」（橋本由香里座長）の第１４回公演「おーい、生きてるよー」は１３日夜と、１４日午後の２回、延岡総合文化センター小ホールであった。生、命とは何か。団員たちはこれまで生きてきた姿を重ね、演じた。

　同団は２００６年、翌春に控えていた団塊の世代の大量退職に合わせ、生きがいづくりの一つになればと設立。作・演出を劇団ぐるーぷ連代表の実広健士さん（７８）＝宮崎市＝が務め、毎年結団式を行い、１年に１度公演してきた。第１４回公演は新型コロナウイルスの影響を受け、昨年５月から２回延期し実現した。

　にぎやかな音楽と共に車いすの女性、腰の曲がったよたよた歩きの女性、明るく元気な認知症の男性など、架空の老人福祉施設「ケアハウス城山」の住人たちが登場。お茶を手に実在する会社名などを挙げて方言たっぷりに談笑する姿に会場は開始早々、笑いに包まれた。

　実は、延期前に稽古を積んできた台本、登場人物とも延期決定後に一新。実広さんの希望で、演目名とケアハウス城山という舞台以外すべてを変え、一から稽古を始めた。

　ケアハウス城山には三つの約束がある。①寝たきりにはしない②延命治療はしない③男女の交際は自由―。

　ある日、市長が功績のある高齢者を表彰することになり、同施設からも１人推薦することに。互いの苦労話に涙を流したり、励ましたり、褒めたりしながら誰を選ぼうか話し合った。迎えた選挙。開票すると自分の名前を書いた人が多いと分かり、やり直しが決まる。

　そこに葬祭場の人が訪れる。きょうは住人の１人が決めた〃命日〃。無事に５回目の命日を迎え、５回目の生前葬を開くのだ。「名人」の愛称で親しまれているその住人は、祭壇の前に座って焼香台を持ち、目の前で焼香をしてもらった。

　「人間が生まれてきたとき、死ぬのだけは保証付き」と名人。住人たちは地球は広い宇宙の太陽系の一つで、地球が生まれて３５億年たっていること、命がつながってきたことなどを語り合う。そして自分はその端っこのほんの小さな一部にすぎず、何の意味もないと言う１人に、いや、そこには人生がぎっしり詰まっていると、出来事を数え上げたり、今まで食べてきた米や肉の量を計算したり。「死ぬ時に生まれてきて良かったと思えることが大事」「あすよりもきょうが若い。今が一番若い」と確認し合う。様子を見守った施設長は選挙を取りやめ、全員を表彰すると決めた。

　実広さんの「日常の何でもないことが実は何でもないことではない、大切なこと」というメッセージのこもったストーリーに、最後は温かい拍手が長く鳴り響いた。

　橋本座長は「笑銀座の『明るく、楽しく、元気よく』のスローガンの下、頑張れたと思う」と笑顔。客席の後ろから団員たちの演技を見守った実広さんは「満足しました。よくやってくれました」とほほ笑んだ。実広さんは、体調などを理由に、指導するのは今回が最後と決めている。「年を重ねて始めるお芝居で、芝居を好きになってほしいとの思いだった。好きになってくれたので良かった」と話した。