感染拡大を防ぐために

本紙掲載日：2020-07-23

3面

延岡市医師会の佐藤信博会長

コロナ禍での心構え、とるべき行動－延岡市医師会佐藤会長の提言

◆市民の努力で延岡を安全なまちに

　６月１９日に県をまたぐ移動の自粛が全面的に解除されて１カ月余り。県内の新型コロナウイルス感染者数は累計で２３人と都道府県別では少ないが、全国では今なお感染拡大が続く。そんな中、延岡の医療体制を守り、社会経済活動の再開につなげようと、延岡市医師会の佐藤信博会長（医療法人社団「光学堂」理事長）は、市民に「新しい生活様式」の順守を呼び掛ける。「一人一人の努力で延岡を安全なまちに」。心構えや感染を防ぐために市民がとるべき行動などについて、佐藤会長の提言を掲載する。

◆無症状期に感染させない努力

　６月１９日には国からの県をまたぐ移動の自粛が全面的に解除されました。県内では感染者がまだ少ないと安心しがちですが、新型コロナウイルスがなくなったわけではありません。感染の危機は１月から３月までの発生初期と大きな変化はありません。第２波、第３波が起きる可能性は常につきまとっています。

　新型コロナウイルス感染症の感染率は、サーズ（ＳＡＲＳ、重症呼吸器症候群）やマーズ（ＭＥＲＳ、中東呼吸器症候群）に比較して低いといわれています。しかし、新型コロナウイルス感染症がこれまでの感染症と全く異なる重要な点は、感染者の症状が出る前に他人に感染させてしまうということです。

　これまでのウイルス感染症は症状が出てから他人への感染力を発揮するので、症状が出た人を閉じ込めれば感染を終わらせることに成功していました。しかし、この新型コロナウイルス感染症は、症状が出てから閉じ込める方法では感染の拡大を止めることはできないのです。

　皆さまへ常日ごろからマスクの着用が求められているのは、感染して症状が出る前の無症状期（感染者が感染していると気づかない時期）に感染を広めないようにするためです。

◆集団免疫獲得には人口の７割
延岡市で８万人以上－あってはならないこと

　新型コロナウイルス感染症に対し安心できる状態になる（終息する）には、①「有効な治療薬ができる」、あるいは②「この感染症に感染し抗体ができた人、あるいは開発されたワクチンが接種され、免疫が得られた人が人口の７割に達する（いわゆる集団免疫ができる）こと」―が必要です。

　ワクチンができていない今の状況で人口の７割が抗体陽性になるには、日本では１億２０００万人の人口の７割、すなわち８４００万人が感染する必要があります。感染者の死亡率が約５％ですから、その間に４２０万人が亡くなることになります。

　この計算を延岡市に当てはめてみましょう。延岡市の人口を１２万人とすると、８万４０００人が感染し、４２００人が亡くなることになります。

　このようなことは絶対に起きてはなりません。そのためには特効薬かワクチンが皆さんに行き渡り、安心できる状態になるまで、全市民が感染しないように持ちこたえることが必要なのです。

◇守ってほしい新しい生活様式

　現在、経済状態が悪化し、感染防止と社会経済活動の両立が必要な状況になっています。街はにぎわいを取り戻しつつあります。しかし、社会経済活動を再開するに当たり注意して、守っていただきたいことがあります。それは「新しい生活様式」です。よく耳にされるので、ご存知だとは思いますが、自ら実践している人はまだ少ないように感じます。エレベーターやお店の中で、大声でお話ししている方をよく見かけます。お酒が入るとお話しが止まりません。また、レジなどで順番待ちをしている時に、ソーシャルディスタンスが守られていない場面を見掛けます。さらに、マスクをしていない方も時々見掛けます。

◇３密避け－マスク、手洗い

①「３密を避けるよう心掛けましょう」。
そう言われていますが、３密の何がいけないのでしょうか？３密は「換気の悪い密閉空間」「多数が集まる密集場所」「間近で会話や発声する密接場面」です。狭い場所に大勢いることがいけないのでしょうか？実は３密そのものが悪いのではなく、３密状態での人々の行動がいけないのです。

　この３密の状況下で感染を生じる経路は飛沫（ひまつ）感染と接触感染です。飛沫感染は人が声を発するときにウイルスを含んだ唾液が飛んで、相手に感染させるわけです。従って、飛沫感染を防ぐには声を発しないこと。これが一番です。どうしても声を出すときには、マスクを着用した上で、相手との距離（ソーシャルディスタンス、最低１メートル、できれば２メートル）を保ちましょう。

　エアロゾル感染（飛沫核感染、５ミクロン以下の大きさの唾液からの感染）の可能性もあるので、換気ができる場所では十分に換気をしてください。また、接触感染（ウイルスが付着している物を触り、その手で目や口などの粘膜に触ることで感染する）を防ぐためには自分の手指消毒と環境消毒を頻回にすることが必要です。

②マスクの着用。
マスクの着用は自分が感染しないためではなく、他人に感染させないための大切な作法です。外出時・屋内にいる時や会話をするときには必ずマスクを着けてください。

③ソーシャルディスタンスを守りましょう。
ソーシャルディスタンスはお店が決めるものではありません。印が無い場所でも一人一人が自分たちで守っていくべきものです。お店に入ったら一人一人が距離を保ってください。特に会計などで並んで待っている時に。

④手洗い・手指消毒はこまめに。
飛沫感染より接触感染の方が多いといわれています。自分のためにも人のためにも、手を使ったら手洗いや手指消毒を積極的に丁寧にお願いします。

⑤お店の方へのお願いです。
▼入館時の検温（１５分以上滞在するような場所）▼手指消毒薬の設置▼多くの方が触る場所を頻繁に消毒する▼従業員へのマスクやフェースマスクの着用（お客さまへの注意喚起を促す）▼定時的な換気（３０分置きに５分、または１時間置きに１０分間窓を開ける）▼アクリル板やビニールシートの設置▼「静粛に」「声を発しないで」などの案内を目立つように複数箇所に設置する▼飲食店では「お静かに、集中して当店自慢の料理をお味わいください」などと表示する▼レジなどで順番待ちが発生する場所では、立ち位置を示すシートを床に張る。

　エレベーターやお店の中などの密な状況下では、声を発しないようにお願いします。また、順番待ちをしている時に、店から立ち位置の指示がない場所でもソーシャルディスタンスを守りましょう。

　以上の事が守られるなら、飲食店を大いに利用し、延岡の豊かな食材を堪能しましょう。食べる時にはマスクは外しますが、食べ終わったらすぐにマスクを着ける。会話をしている時はマスクを必ず着用する。これが新しい生活様式で延岡モデルとして全国に名をはせることができれば、多くの人が延岡のおいしい食材と安心して食べられる環境を求めて集まってくると思います。

◇盤石ではない延岡の体制－毎日２、３人で大変な状況に

　延岡の医療体制は盤石ではありません。毎日２、３人の感染症が出るとかなり大変な状況になり、毎日１０人以上になれば、医療崩壊を起こしかねません。指定医療機関になっている県立延岡病院と延岡市医師会は連携して治療に全力を尽くしますが、多くの医療従事者が罹患（りかん）するような最悪の場合は医療機関そのものが機能しなくなります。

　延岡を新型コロナウイルス感染症から守るためには、市民の皆さま一人一人の努力が必要です。全市民の協力がなければ、延岡は安全な街になりません。どうか、ご理解・ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。