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ココカラSDGs−第32回「ここでしかないもの・地方資源由来のサステナブルをつくる」

本紙掲載日:2023-11-23
6面

◆僕らの次の世代、光でしかない−杉本さん
◆地方トップランナーに教え請う―江原さん
◆世界も注目、ソーシャルビジネス―難波さん

 今注目のSDGs(エスディージーズ)をテーマに、地域や地球の未来を共に考えるFMのべおかの番組「ココカラSDGs」の第32回「ここでしかないもの・地方資源由来のサステナブルをつくる」が、16日に放送された。内容を一部抜粋して紹介する。

 アドバイザーはSDGsコミュニケーターの難波裕扶子さん(51)=シンク・オブ・アザーズ代表、日向市亀崎西=。ゲストは杉本商店代表の杉本和英さん(49)=高千穂町三田井=、LOCALBAMBOO(ローカルバンブー)代表の江原太郎さん(33)=延岡市上三輪町=。なお、収録は9日に行われた。

▽提供:旭化成、グローバル・クリーン
□再放送□23日午後8時から、26日午前11時からの2回


−−今回のテーマは「ここでしかないもの・地方資源由来のサステナブルをつくる」です。

〈難波〉今、ビジネスや個人的な決断が地球や社会にもたらす影響への認識が、どんどん高まっていますよね。それは私たちの生活を支える農林水産業も例外ではありません。法律の整備だけではなく、社会課題の解決を目指して行う「ソーシャルビジネス」もどんどん進んでいます。
今回はここでしかないもの、地方資源由来を核とした農業、林業のソーシャルビジネスで今、国内にとどまらず世界からも注目されている実践者をゲストに、その思いや具体的な取り組みについて教えてもらい、未来につながるアクションのヒントにつなげたいと思います。

−−では杉本さん、自己紹介をお願いします。

〈杉本〉私の会社の事業は1954年に私の祖父が始めました。どんな事業かと言いますと、地域の生産農家さんに栽培した原木栽培の干ししいたけを持ってきていただき、それを仕入れさせていただき、全国に販売していました。
ところが昨今、国内の市場は非常に小さくなり、食生活が変わったことによって干ししいたけがなかなか使われにくい世の中になってきました。
そこで、2016年から事業を持続するために、何とか新しい市場を開拓しなければいけないということで海外に目を向け、少しずつ広げながら現在、世界23カ国に輸出しています。いろいろやればやるほど失敗も多いですし、気付きも非常に多く、それを事あるごとに対処しながら現在に至っています。
輸出というと、非常に難しいイメージがあるかと思いますが、実際に一番大事なことは、まず一歩を踏み出すことだと思っています。最近はいろいろな場に講師として呼んでいただき、そういった話をさせてもらっています。

〈難波〉杉本さんといえば「なば王子」としてもご活躍ですが、海外でも浸透しつつあるのではないでしょうか。

〈杉本〉そうですね。海外では「なばプリンス」で通っています。相手の記憶に残るということは、すごく大事なことです。シイタケってどうしても、そんなに派手ではないので、そのシイタケを一体どんな人が紹介するのか、ということが非常に重要なエッセンスだと思っています。

−−続いて江原さん、自己紹介をお願いします。

〈江原〉僕は東京農業大学を卒業後、2019年にUターンで延岡に帰ってきました。実家の山と畑を活用して農業をしようと思っていた時、竹がとてもじゃまだと感じて。それを何とか解決できないか調べていたところ、食べるという手段、つまりメンマに加工して食べられることを知り、「延岡メンマ」という商品を作り始めました。
竹の問題で困っているのは僕ら延岡だけではありません。困っている全国の方々に、僕らが得た知見を落とし込んで、それぞれにご当地メンマを作ってもらおうと今、「クラフトメンマ授業」を展開しています。じゃまな竹を価値あるものに変え、それで得たお金を地域に還元し、さらに環境も良くしてもらおうという取り組みです。
祖父母が先祖代々、畑と山を守りながら兼業農家をしていましたが、父や母、僕らの世代は高等教育を受けた影響もあって事業承継はされませんでした。この竹の問題も、空き家問題も同じ状況だと思います。

〈杉本〉さきほどもお話しましたが、生産者さんが持って来られる干ししいたけをどうやったら買い続けられるか。そのためには新しい市場をつくらなければならないと考え、海外に出ていきました。
海外を狙ったというのは実は二つの目的があって、一つはもちろん新しい市場をつくるためだったのですが、その中に隠された本当の狙いというのは、実は日本人は海外で売れたものが大好きだからです。
もう一つは、さっき江原さんの話にもありましたが、事業承継が途絶えたものを、どう新しいものに変えて次の担い手を入れていくか。
そのために「海外でこれだけ評価されているものだよ」と示すことで何となく明かりが差すのではないか、「じゃあ、俺もやってみようかな」という次の担い手が現れるのではないか、と考えています。最終的には「じゃあ、俺もやってみようかな」という人が高千穂町周辺に移住し、取り組んでくれるのが目標ですが、そこはまだまだ達成できていません。

−−お二人は知り合いだそうですね。

〈江原〉杉本さんは、一度も会ったことのない他事業の僕を快く、寛大に受け入れてくれました。ご自身の持っている知見をどんどん教えてくれるので、とてもたくさんのことを杉本さんから学ばせてもらっています。

〈杉本〉彼の事業のすごいところは、自分たちが作り上げたものを自分たちだけのものにしないことです。それをどんどん横展開していく。全然僕らがやろうとしていることと桁違いです。だからもう、本当にすごい人がいるもんだなと思って、むちゃくちゃ刺激をもらっています。
そして僕らの世代の次の世代です。だから本当に、僕らからすると光でしかない。この後どうなるんだろうって不安な感じじゃなくて、もう僕らの後に、はるかに僕らよりすごいことをやろうとしている、というかやってる人がいるから、それはすごい面白い。うれしかったですね。

−−昨年、「延岡メンマ」はANAの国際線ファーストクラス機内食に、和食メニューの一品として採用されました。

〈江原〉そもそも放置竹林の問題は、管理が行き届かないことから起きます。竹の成長力や繁殖力が高すぎて木の成長を止めてしまい、日光が入らなくなることで、その土地の植生や環境を壊してしまいます。浅く生えてしまったものは土砂崩れの原因にもなります。
また、人が山に入らなくなるのでイノシシやシカなどのすみかになり、鳥獣被害の温床になってしまうのです。そんな延岡の放置竹林で作った商品を、世界に発信することができました。

−−江原さんはUターン前、農業ベンチャー企業で働かれていたそうですね。

〈江原〉大学を卒業した後、東京都内の農業ベンチャー企業に就職しました。商業施設の屋上に農園があって、その農園長として3年半ほど働きました。
延岡みたいな地方では、稲刈りや田植えが当たり前に行われますが、都会だと経験する場所がありません。でも、タワーマンションに住んでいる富裕層は子どもに体験させたい。延岡では日常的なものが、都会ではすごくニーズがあるのです。
その捉え方の違いから、屋上の農園で働いていた当時、延岡の親戚からは「お前何やってるんだ。そんなのは農業じゃないよ」みたいなことをずっと言われていました。

〈杉本〉時代が変わると見方も変わります。江原さんは今の時代の目線で見て面白いと思って取り組んだり、事業に生かしたりしていると思いますが、それは僕らにはない視点です。

〈難波〉現場を知っていることは一番大きく、何かをしないと怖いことが起きてしまうという危機感を持っているのだと思います。江原さんを突き動かしたのは何ですか。

〈江原〉延岡に帰ってきた時に、たくさんある戦えるものを使わないことへの疑問と、実家の竹の問題が相まって始めました。また、その時から農産物が日本の国産ブランドとして輸出されており、これは外貨を稼ぎに行くしかないと思いました。

〈杉本〉見方を変えて「これは絶対に資源になる」「これを使って世界に出ていける」という考え方を持つことは、多くの人が知るべき知恵だと思います。
考えを持っていても、一歩を踏み出せない人が多いです。でも、江原さんはとりあえずやってみよう、どうやったらできるんだろうと追及しています。これは大事な発想で、ゼロイチをする上で絶対に必要なことだと思います。

−−ANAの国際線ファーストクラスでの採用後、さまざまな場面で引き合いがあったのではないでしょうか。

〈江原〉国際線に乗らせてもらい、海外でもやっていきたいなと思いました。でも、知見がなかったので杉本さんのところに伺いました。
シイタケとタケノコは特用林産物というカテゴリーに入ります。その先輩である杉本さんに「どうやって海外での事業を広げているのですか」などと尋ね、教えてもらったことを参考に僕らは昨年、パリに行きました。
パリではラーメン一杯が2000円から3000円で提供されます。ラーメンに使われる僕らのメンマはその領域の世界で、かつ本当にこだわって作っている人がいることを知りました。

〈杉本〉僕が江原さんにとても可能性を感じているのはラーメンです。ラーメンは世界の食べ物になり、3000円を払ってでも行列ができます。
ただ、ラーメンは確かにこだわっていますが、メンマには、まだこだわれていません。ラーメンがこれから加速し、もっと良いラーメンが作られていくと、江原さんの活躍の場が出てきます。
これは僕のやってきたことに非常につながるものがあります。僕らが最初にシイタケを海外に出すことを話した時、「いや、杉本さん無理ですよ。中国産の安いものがたくさんあるんだから」と言われました。
しかし、中国産のものを食べたことがある人が世界中にいれば、説明がいらないため売りやすいです。つまり、江原さんにも同じことが起こっているのです。

〈難波〉ローカルバンブーのホームページには「地方に埋もれている資源を活用した持続可能なアイディアを形にしてまいります」とあります。このようなことを考える方が延岡にいるんだと思ってとても感動しました。

〈江原〉地域内消費だけではなく海外にも出ていけるものが、地方にはいっぱいあると思っています。それをどのように具現化してやっていくか、それを踏み切るかどうかが大事です。そのためには、地方のトップランナーである杉本さんのような人たちにどれだけ教えを請うかどうかです。

〈杉本〉僕に聞きに来てそのまま終わる人が多いのも事実ですが、自分たちが苦労して見てきたことを大事にとっておく必要はありません。それをヒントにして、踏み台にして次に進む人たちが出てくれれば、きっと持続可能な世の中になると思います。

−−海外展開で気付いたことはありますか。

〈杉本〉海外では基本的に物事がうまく進みません。先月、ドイツに行った時、荷物が何も届かず展示会で使うサンプルが一つもありませんでした。そのため、海外に行くときは事前に他のプランを用意し、スーツケースに必要最低限のものを入れて持って行ったり、現地で調達したりしています。それが非常に大事なことです。
また、販売している国のお客さまの声を聞くことがものすごく大きいと気付きました。お客さまはバイヤーではなく、自分の財布からお金を出す人です。その人たちがどういったものを気に入っているのかを、滞在期間中にできるだけ吸収し、やり方を少しずつ変えながらより良いものにしていくことがすごく大事だと思いました。

〈江原〉数週間前に台湾に行きましたが、台湾では竹を食べる文化が日本よりもあります。ラーメンもよく食べられており、日本人オーナーよりも現地の人の方がラーメンの食材にこだわっていました。海外に行くと本当に気付かされることがあるなと感じます。

〈難波〉海外に行ってみて感じた日本と異なる感覚やギャップがあれば、具体的に教えてください。

〈杉本〉初めは海外と日本のギャップはあると思っていましたが、考え直すとそんなにないと思います。
僕らは干ししいたけを試食で出す時は煮物で出していました。最も日本らしい食べ方で伝えやすいのですが、海外の人からすると食べたことがない料理法のため少し抵抗があったようです。
そのため、バターソテーなどなじみのあるものにメニューを変えました。すると、受けが良く、各国の食生活に合わせることはとても大事だと思いました。
また、岐阜県のスーパーマーケットで、干ししいたけを売った時は煮物を準備しましたが、反応が良くありませんでした。そこで海外と同じようにバターソテーで出したら、食い付きが全然違いました。いつの間にか日本人の食生活が欧米化されていたのです。
これはお客さまの反応を見ないと分からないことで、海外はこうだろう、日本はこうだろうということは考えてはいけません。その都度、やり方を変える必要がありますし、思っていた以上に日本人の食生活が変わってしまったことを再認識しました。

〈江原〉僕らは海外ではラーメンのメンマとして市場に出そうと思っていますが、日本ではメンマの概念を超えたいと思っています。ラーメンだけではなく、ご飯やパスタ、トーストなどに合わせる違う食べ物にするために、メニューを考案したり提供したりしています。
日向市のステアーズ・オブ・ザ・シーでは、期間限定で「延岡メンマバーガー」などを提供しました。今の子どもたちのライフスタイルや感覚に合わせた新しい価値を創造しています。
僕らは「食べることで森が育つ」というキャッチフレーズで活動しています。皆さんにどんどん消費してもらって竹の問題を知ってほしいと思い、いろいろな形でチャレンジしています。

−−取り組んできたからこそ見えてきたことがあれば教えてください。

〈杉本〉海外の人たちは商品よりも商品の奥にあるストーリーを求めています。例えば、先日、米国ニューヨークのレストランでイベントを行った時、干ししいたけはどのような人たちがどのようなところで作られているのかを、お客さまはものすごく知りたがっていました。
そのため、どういう人たちがどこで作っているのかという情報はものすごい意味を持っており、ブランドになると思っています。

〈江原〉日本でも学校給食などの現場に行くと「メンマをキノコだと思っていた」と答える子どもが多いです。僕も正直、4年前まではメンマが竹からできていることを知りませんでした。
いろいろなところでタイアップしていくことで、メンマが認知されていくと思っています。杉本さんの活動と僕らの活動を、ソーシャルビジネスとしてどんどん発信していきたいです。

−−最後に、皆さんにメッセージをお願いします。

〈杉本〉僕たちが扱っている原木栽培からできる干ししいたけの生産者は非常に高齢になっています。このまま何もしなかったら「昔、そういう食べ物があったよね」という食べ物になるかもしれません。
そういうものに今、世界中の人たちが注目をし始めています。皆さんの周りに干ししいたけがあれば、料理に加えてもらいたいです。

〈江原〉あなたの食欲が森を育てます。食べるといったことで解決できることもあると思うので、この延岡メンマを通して、放置竹林の活動を知ってほしいです。

〈難波〉大事なことは、次の世代の江原さんが、自ら杉本さんに助けてほしいと言ってきたことです。お互いに分からないと、ハレーションを生み出してしまいます。そこに踏み込むかどうかという勇気と、それを受け入れるわれわれ大人が耐性を持てるかどうかで、そこに新しい時代の風が生まれるような気がします。(おわり)

□第33回の内容□
〈テーマ〉「先生教えて!イノベーション論」
〈ゲスト〉宮崎大学地域資源創生学部教授の谷田貝孝さん
〈放送日〉12月21日午後1時から
〈再放送〉12月24日午前11時から、28日午後8時からの2回

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